わたしの義父は80歳。
以前はビルを建設する会社に勤めていて、わたしから見るととても几帳面である。
一日2時間のウォーキングを自分に課し、毎日綺麗な字で日記を綴っている。
そして、大の読書好きで、いつもリビングのソファで昔の本を読んでいる。
好きな作家は司馬遼太郎さんや山崎豊子さん、池波正太郎さんといったしぶいラインナップ。
そんな義父があるとき、55年前に仕事仲間から借りて読んだ本で、面白くてもう一度読んでみたいものがあるんだよなぁ、という話になった。
題名や作者は覚えていないのだが、その内容をびっくりするほど鮮明に覚えており、わたしは驚いた。
ぜひ、もう一度読んでもらいたいと、ネットで色々と検索してみたものの、なかなか見つからない。
どうしたものかと悩んでいるとき、わたしは閃いたのだ。
パーソナリティーをやっているラジオ「イモトアヤコのすっぴんしゃん」で、リスナーの皆さんに相談すればよいのではないか。
その旨をすっぴんしゃんのヘビーリスナーでもある義父に伝えると
「お願いします」
すぐさま番組でリスナーさんに情報を乞うた。
いやー、ラジオの力ってすごいですね。
数週間後には、義父のもとにその55年前に読んだ本が届いた。
その名も
「フェイル・セイフ」
先日、実家にお邪魔したとき、嬉しそうに見せてくれた。
そして、まっすぐな目で
「たぶんこれは、表紙のカバーの感じからして、実際に55年前に借りた本そのものかもしれない」
わたしの義父は80歳。
とてもピュアな心の持ち主である。
『フェイル・セイフ』
著:ユージン・バーディック、ハーヴィ・ウィラー
訳:橋口稔
発行:河出書房新社