数年前からナレーションを担当させてもらっている、仲良しの山男達が出演する番組。
NHK BSでやっている「地球トラベラー グレートヒマラヤトレイル」。
登山部でお世話になっている
登山家の中島ケンローさん
カメラマンの石井さん
この2人が、まだ誰も撮ったことのない景色を目指し、ネパールにあるグレートヒマラヤトレイルからさまざまな山を撮影するのを、わたしも加えて3人で和気藹々と語る。
わたしにとってはお仕事というより、なんだかリビングで、誰よりも先に番組を見させてもらっている感覚だ。
そしてその映像は、いつも想像を超える。
自然の驚異の中、2人がほぼ垂直な氷壁を登ったり、とんでもない急斜面でテントを張ったり、毎回ヒヤヒヤする。
基本的に画面には2人が映るのだが、わたくしの山の師匠である、貫田さんもスタッフさんとして現場に行かれている。
今回は、ヒマラヤ最後の巨峰「ダウラギリ」を撮影するという内容。
もちろん、ただ登るのではなく、誰も撮ったことのない「ダウラギリ」を撮影するのが目的である。
なもので一般的なルートではなく、撮影にベストな攻めた場所に登り、そこからカメラを回す。
だからこそ、心打たれる圧巻の映像を拝めるのだ。
今回は映像の他に、もう一つ心打たれるストーリーがあった。
なんと、貫田さんが約40年前に「ダウラギリ」で、一旦下山せずに次の頂を目指す「縦走」という登山方法に挑んだお話があった。
しかも凄いことに、そのときの映像が残っていた。
途中、体調不良で、中間キャンプからサポートにまわった貫田さん。
アタックメンバーの2人と無線が繋がらなくなり、ベースや中間キャンプではひたすらに声を掛け続けていた。
翌日、やっと応答があったそのとき、貫田さんの
「バカヤロウーーー心配させやがって」
怒りと安堵の涙とが入り交じった言葉が発せられた。
それは、わたしにとっては初めて見る貫田さんで、こんなにも感情をあらわにするのは、それだけ一晩中無事を祈り続け、何度も「もうだめかも」と思い、それでもみんな諦めず、ようやく声が聞けたときに、想いが爆発したのだろう。
ディレクターさんのお話だとその時代、登山は高さを追い求めるスタイルから、誰も登ったことのないルートを目指す新時代に突入した時期だったそうだ。
若き貫田さんもその一人で、「ダウラギリの縦走」という、まだ誰もやったことのないものにワクワクし、冒険したのだ。
やはり人間の、挑戦への欲求というのは凄まじい。
誰もやったことのないこと、見たことのないものを見てみたいという好奇心は絶えない。
その欲や好奇心のおかげで、人類は進化してきたのだなと、今回感じた。
そして、その貫田さんの魂は、今度はケンローさんや石井さんに受け継がれているではないか。
山に限らず、イズムというか、魂のような、目には見えないものにこそ、進化の鍵があるのだな。
3月9日 NHK BSP 4K
18:00~19:29(NHK BSでは4月以降に放送予定)
ぜひみてちょ。