なかでも、作家の池波正太郎さんは、粋なおじさんの代表格である。
そんな池波さんのエッセイを読んで、数年前から憧れていたのが、あるホテルに泊まり、天ぷらを食らうといった、この上なく粋な行為。
数々の文豪が愛した、そのホテル。
いつかいつかと言っている間に、なんと老朽化により、休館してしまったのだ。
系列の天ぷら屋さんは、何店舗かあるのだが、なかなか食べに行く機会がなく、胃袋の片隅には記憶しているくらいで、粋な生活からはほど遠い時間を過ごしていた。
ところが先日、これまた粋な街、日本橋に用事があって出かけたところ、思いのほか予定より早く着き、空腹を満たそうとうろちょろしていた。
すると、日本橋三越に、「天ぷら 山の上」という文字を見つけた。
これはと思い、すぐさまお店に向かうと、昼時だったがラッキーなことに、カウンターがひと席あいている。
カウンターで天ぷらって、もうどんだけ大人なんだよとニヤニヤしつつ、目の前で揚げて頂く最高の時を過ごした。
そこで思い出される、池波さんの言葉。
「天ぷらは親の仇のように食え」
この言葉の通り、もう出てきた熱いうちからバクバクと食べた。
揚げたての天ぷらのうまいことといったら、もうたまりません。
わたしも、もう十二分に大人なのだが、年齢だけでなく、真の大人に近づけたような気がした一日であった。
